1 昭和56年判決が示したと一般に言われている「事業所得の4要件」
所得税法上、「事業」や「事業所得」についての明確な定義規定はありません。最高裁は本判決におい
・・・(続きはこちら) 1 昭和56年判決が示したと一般に言われている「事業所得の4要件」
所得税法上、「事業」や「事業所得」についての明確な定義規定はありません。最高裁は本判決において、事業所得とは「対価を得て継続的に行う経済活動」のうち、以下の4つの客観的特質(要件)を備えているものであると判示しました。
① 自己の計算と危険において独立して営まれていること
② 営利性・有償性を有していること
③ 反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められること
④ 業務としての社会的地位が客観的に認められること
2 「事業所得一般の要件」と捉えるべきか
裁判実務や税務執行においては、本判決が示した4要件は事業所得一般の定義(成立要件)として定着している印象を受けます。
弁護士の顧問料という特定の所得だけでなく、例えば「医師の報酬」「プロスポーツ選手の契約金」「ネットオークションによる副収入」「個人事業主(ギグワーカー)の報酬」など、およそ「その所得が事業所得(あるいは雑所得、給与所得)のいずれに該当するか」が争われる事案において、この昭和56年判決の4要件が基本的な枠組みとして引用されます。その意味で、実務的には「一般の要件」として機能していると考えられるのです(なお、一時所得との区別が問題となった競馬所得に関する裁判でも参照されています。)。
一方で、本判決ないし前提となった本事案の本質は、特定の弁護士が受け取った固定額の顧問料が、事業所得なのか、それとも給与所得なのかという所得の区分だったともいえるのであり、4要件の筆頭にある「自己の計算と危険において独立して営まれているか」という指標は、他人の指揮命令下に置かれる「給与所得者」ではないことを区別するための、いわば給与所得との相対的な識別記号として要請された側面があります。
また、実務上頻出する「事業所得か、それとも雑所得(副業など)か」という限界事例の判断においては、なぜなら、趣味の延長や副業であっても、営利性、有償性、継続性(2〜4の要件)を満たすケースが多々あり、この4要件だけでは不十分という指摘もされています。
3 総合考慮の重要性
最高裁は4要件を提示しつつも、最終的にはそれらを機械的に当てはめるのではなく、「租税負担の公平を図るため、所得を分類し、その種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、目的に照らし、その業務の具体的態様に応じて、その法的性格を判断しなければならない」とか、「諸般の事情を総合考慮し、社会通念に照らして判断すべき」という留保もつけています。
つまり、4要件はあくまで「一応の基準」を例示したに過ぎず、事業所得一般を基礎づけるのは、「社会通念(その時代の社会常識)」であるという点です。活動に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的・物的前備(事務所の有無など)、その収入で生計を維持しているかといった個別の事実関係を総合的に観察し、社会一般の常識に照らして「それは事業と呼ぶにふさわしい」と認められるかどうかがという視点は重要といえます。
具体的な当てはめを行う際には、この4要件を満たしているかを確認するだけでなく、それが現代の取引実態や社会通念においてどのように評価されるかという多角的かつ実質的な視点を持つことが重要です。